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大阪高等裁判所 昭和62年(う)1005号 判決 1987年11月24日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣旨は弁護人岩本信正作成の控訴趣意書記載のとおり(弁護人は被告人作成の控訴趣意書を陳述しない旨述べた)であるからこれを引用する。

論旨は原判決の量刑不当を主張するものであるが、所論にかんがみ記録を精査し当審における事実取調の結果をも併せて検討するに、本件は被告人が中心となつて他の共犯者と共に自動車事故を仮装して約一二〇〇万円の保険金を騙取した事案であつて、罪質、動機、態様、騙取金額に徴し犯情悪質というべきところに加え、被告人自身は全く被害弁償をしていないこと、被告人は過去多数の前科を有することをも考慮すると被告人の刑責は重大であるから、被告人が反省していることや暴力団組織から脱退したこと、その他所論指摘の点を含め被告人に有利な事情を斟酌しても被告人を懲役二年六月及び同四月に処した原判決の量刑は重過ぎるものでない。所論は原判決が量刑にあたり原判示第二の事実をも考慮していると非難するもののようであるが、原判決が被告人について認定した罪となるべき事実が第一の各事実のみであることは右罪となるべき事実の記載の体裁上明らかであり、原判決の量刑理由の説示中判示第二の事実を要約するにあたり二個所にわたつて「被告人A」との記載のある点に所論のように解せられる余地がなくもないといえなくもないけれども、それは不当に細部に拘泥して右説示全体の趣旨を正解しないものというべきで、右説示が被告人について原判示第一の各事実のみを考慮する趣旨であることに疑問の余地はないというべきである。よつて論旨は理由がない。

なお、原判決の法令の適用によると、原判決は判示第一の一の1及び同2の各事実を包括して一個の詐欺罪に該当するものと解しているとみられるけれども、右各事実はそれぞれ独立して一個の詐欺罪に該当し両者が併合罪の関係にあるものと解すべきであるから、右法令の適用には、判示所為につき「第一の一及び二につき」とある部分を「第一の一の1、同2及び第一の二につき」とすべき、併合罪につき「判示第一の一の罪に対し刑法四五条後段、五〇条」とある部分を「判示第一の一の1及び同2の各罪に対し、刑法四五条前後段、五〇条、四七条本文、一〇条(犯情重い前同2の罪の刑に加重)」とすべき誤りが存し、その結果原判示第一の一の各罪は長期一五年以下の懲役刑をもつて処断するのを正当とするところ原判示の法令の適用の結果による処断刑の上限一〇年との間に差異を生ずることとなるが、原判決の宣告刑懲役二年六月が右正当な処断刑の範囲内にあり、しかも右上限一〇年よりはむしろ処断刑の下限に近接した領域で量定されていることに徴すると右法令適用の誤りは判決に影響を及ぼさないというべきである。

よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき同法一八一条一項但書を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山中孝茂 裁判官髙橋通延 裁判官島敏男)

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